契約不適合責任とは

契約不適合責任は、簡潔に言えば、「購入予定の商品と受け取った商品が異なる」という購入者の主張を認めて、その責任を販売者に負わせる法的責任です。

これに関する法令は、民法第562条から第564条に規定されており、具体的な文言では「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」が契約不適合責任の発生要件として明示されています(第562条第1項)。なお、売買によって購入者に譲渡された権利も、この法的枠組みの対象とされています(民法第565条)。

目的物の品質

通常、住宅が持つべき品質は、売買契約書に特別に明示されることはありません。たとえば、住宅の場合、雨風をしのぐ屋根や壁、快適な生活を提供する空間などが当たり前に期待されます。

ただし、契約書に明示されていないからといって、契約上で想定された品質に欠けた住宅を販売しても合法ではありません。売主は契約不適合として責任を問われる可能性があります。

目的物の種類や数量については契約との整合性が比較的容易に確認できる一方で、品質については主観的な要素も絡むことがあります。売主と買主の期待や理解に齟齬が生じると、トラブルの発端となりかねません。そのため、売主は契約締結前に丁寧な説明を行うことが重要です。

瑕疵担保責任との違い

契約不適合責任は、2020年4月1日から施行された民法に組み込まれた新しい規定です。それ以前は、売主の責任を規定したのは「瑕疵担保責任」と呼ばれるものでした。瑕疵とは不具合や欠陥を指し、この制度では買主が注意を払っても知り得なかった不具合や欠陥(隠れた瑕疵)に限って、売主が責任を負うものでした。ただし、買主が瑕疵を知らなかったかどうかは常に争点となっていました。

契約不適合責任では、契約との適合性に焦点を当てました。つまり、契約に適合した目的物が引き渡されていない場合、買主は売主に対して責任を問うことができます。

瑕疵担保責任に比べて、契約不適合責任では買主の請求権が拡大され、同時に売主の責任もより重くなりました。

買主が請求できる権利とは

契約不適合責任で認められた買主の請求権は、以下の4つです。

・追完請求権
・代金減額請求権
・損害賠償請求権
・契約解除権
※このうち、追完請求権と代金減額請求権は、契約不適合責任で追加されました。

追完請求権

引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

買主が引き渡された不動産が契約に適合していない場合、売主に対して以下のいずれかで、完全な(契約に適合した)状態にする請求が可能です。

  1. 目的物の修補
  2. 代替物の引渡し
  3. 不足分の引渡し

ただし、不動産そのものが唯一の存在であるため、代替物や不足分を引き渡すことが難しいことがあります。例えば、不動産の一部機能に契約不適合がある場合、雨漏りなどの問題に対処するためには修補(修理や補修)が唯一の対応策となります。

代金減額請求権

次に掲げる場合には、買主は、同項の催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができる。
一 履行の追完が不能であるとき。
二 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。

買主が相当な期間(売主が対応可能な期間)を設定して追完請求を行ったにもかかわらず、売主が対応しない場合、契約不適合の程度に基づいて代金の減額を要求することができます。

一方で、契約不適合の内容によっては、売主が対応できないケースも考えられます。例えば、契約上で100坪の土地売買が合意されていたにもかかわらず、実際には99坪しかない場合、売主が足りない1坪を追加で引き渡す手段が存在しないかもしれません。

このような場合、売主が追完できない状況では、買主は追完を求めずとも代金の減額を請求できます(この場合、1坪分の減額など)。売主が追完を断った場合や、契約に適合する見込みがない場合も同様です。

損害賠償請求権

瑕疵担保責任において認められていた損害賠償請求権は、契約不適合責任においても認められています。契約に適合しない不動産が引き渡され、その結果買主に損害が生じた場合、買主は売主に対して損害賠償を請求することができます。

ただし、損害賠償請求を行うには、売主に帰責事由(落ち度)が存在しなければなりません(民法第415条第1項ただし書き)。この点は、単に契約に適合しないことを要件とした追完請求や代金減額請求とは異なりますので、留意が必要です。帰責事由がない場合、損害賠償請求権は制限されます。

契約解除権

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

売主が相当な期間を設定した追完の請求に応じない場合、買主は催告解除の権利を行使することができます。この行為は、催告解除と呼ばれます。

ただし、契約不適合が「契約及び取引上の社会通念に照らして」軽微な場合は、買主は解除権を行使することができません。つまり、社会通念や契約の性質に照らして問題が軽微であると判断される場合、買主による催告解除は認められません。この判断は一般的に慎重に行われ、軽微な不適合であるかどうかは具体的な事案の状況によって異なります。

売主が追完できない、あるいは売主が追完を拒絶した場合で、契約に適合する見込みがないときは、買主は相当な期間を定めずに直ちに契約を解除することができます。この解除方法を「無催告解除」といいます。この規定は民法第542条に基づいています。
無催告解除は、一定の条件が満たされる場合に限られますが、契約に適合する見込みがないことが明確である場合には、買主は催告を行わずに直ちに契約を解除できるという制度です。

契約解除と代金減額請求の要件は一部重複しています。売主が相当な期間を設定した追完請求に応じない場合、買主は代金減額請求または契約解除の選択肢を持っています。
どちらの手続きを選択するかは、具体的な状況や契約の不適合の程度、買主の希望などに依存します。代金減額請求は契約を継続して物件を受け取る形で問題を解決しようとする一方、契約解除は契約の終了を意味し、物件の引き渡しを含む関係を終結させます。買主は状況に応じて最適な手続きを選択することになります。

不動産売却で売主が気を付けるポイント

契約不適合を理由に、買主から何らかの請求が生じる可能性があるため、売却する不動産について買主との情報共有が極めて重要であることが明確です。

契約の適合性は、仲介の不動産会社が作成する売買契約書や重要事項説明書だけで完結するものではありません。後に「そのようなつもりではなかった」と主張されないように、買主との合意においては不明瞭な部分を最小限に抑える努力が肝要です。

不動産売却において、売主が留意すべきポイントを以下にいくつかご紹介します。

責任を問わるれ可能性があるケース

具体的な例として、売主が雨漏りに気づかず、買主に告知せずに住宅を売却した場合を考えます。

このケースでは、買主は雨漏りの修繕を請求する権利が生じます。売主が修繕に応じない場合、買主は修繕費用相当分を売却代金から減額する請求が可能です。雨漏りは居住性を損なう重大な不具合であり、その程度が深刻であれば、契約を解除される可能性も考えられます。

また、雨漏りが原因で損害が生じた場合、損害賠償請求も考えられます。ただし、売主が雨漏りを知っていたにもかかわらず隠していた場合や、売主に責任がない場合は損害賠償請求の要件を満たさない可能性があります。ただし、本当に知らなかったという主張は難しく、このような状況ではトラブルが避けられないでしょう。

免責の特約について

契約不適合責任は、当事者間の合意(契約上の特約)によって一部または全部が免責されることがあります。例えば、買主の請求権を追完請求に限定する特約や、売主が契約不適合責任を負わない旨を規定する特約などが契約の自由に基づいて設定されることがあります。

ただし、例外的に契約不適合責任を免責する特約があったとしても、知りながら告げなかった事実については売主は責任を免れません(民法第572条)。言い換えれば、売主が契約不適合を故意に隠した場合など、意図的に情報を伏せたケースについては免責されないとされています。

契約不適合責任の期間

買主が目的物の種類や品質に関する契約不適合を知った場合、それを売主に通知する際には通知期間が設定されています。通常、この通知は1年以内に行われなければなりません。通知期間内に売主への通知がない場合、追完などの請求ができなくなります。

ただし、数量や権利に関する契約不適合については通知の要件がありません。つまり、これらの要素に関する契約不適合が発生した場合、買主は通知を行わずに追完などの請求を行うことができます。このような異なる取り扱いは、契約不適合に関する通知のルールが種類や品質によって異なることを示しています。

売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。

上記条文の通り、以下の場合は1年以内の通知から除外されてしまいます。

  1. 売主が契約不適合を知りながら目的物を引き渡した場合
  2. 売主の重大な過失で契約不適合を知らなかった場合

これらのケースでは、通知期間が通常の1年以内に制限されず、通知を行うことなく追完などの請求が可能となります。


一般的な債権の消滅時効と同様に、買主の契約不適合に基づく請求期間も通常、知った時点から5年または請求できるときから10年です。一般的には、契約不適合を認識したと同時に請求が可能であり、その時点から5年の請求期間が適用されることが多いです。